(J=大学院博士課程)

島の人間、島の私。 最終回

上京してもうすぐ10年になる。 私は小さな南の離島で生まれ、高校卒業までそこで過ごした。 高校時代の私にとって、島は早く離れたい場所だった。何もない小さな島で、何もない日常が、地縁と血縁とうわさ話だけの社会で終わっていく。高校時代の私は、島を…

謝罪の理由

父方の祖母が今年94歳になる。 少し体調が悪そうだが、それでも元気に過ごしている。そんな祖母が90歳を越えたあたりから、私を見ると「ごめんね」と謝罪の言葉をかけるようになった。その謝罪の理由は、私に父親がいないのは祖母自身のせいだというのである…

「書くこと」の快楽

スポーツも音楽も勉強も不得意で、そのうえ人見知りで友だちもほとんどいなかった小学生の私のとって、一番好きだったことが担任の先生との日記だった。どんなことにも丁寧に赤ペンでコメントをもらえることがうれしくて、私は日々、今日はなにを書こうかと…

上海

中国・上海へ行ってきた。 今回で4度目となる上海訪問の目的はもちろん上海世博(上海万博)なのだったのだが、最後に行った2年前とは大きくその姿を変えていた。外資系企業の看板が立ち並び、以前よりも「都市」として整備された街並みはひどく人工的であ…

キリギリスの生き方

夏の間に必死に冬の為に食料を蓄えようと働くアリ。働かず、自らの好きな音楽だけに興じ、遊んでいたキリギリス。やがて冬が到来し、食料を蓄えたアリとは対照的に食べるものがないキリギリス。キリギリスはアリに食料を分けてもらうように頼み、アリはキリ…

「セフレ」

来年アメリカで発表予定の論文の筆がなかなか進まない。あと数週間で提出しなければならないのに、気持ちだけが焦っている。 論文のテーマは快楽、とくに大衆文化と女性の快楽に関するものなのだが、最近ある女性の方と性的な快楽について話す機会があった。…

総務の品格

「編集は一度失敗しても次の企画がよければ挽回できる。でもね、総務の仕事はそうじゃない。120%やってもみんな当たり前だと思っているの。1つでもミスがあれば、その時点で怠慢だと思われるわ。だから総務の仕事は厳しいのよ」 私が「総務」という職種…

ドッペルゲンガー

先月、電車の中で財布をなくした。 当初は落としたと思っていたのだが、その後、数万円程度クレジットカードが不正使用されていたことがわかり、意図的に盗まれたかもしくは悪意ある人間が財布を拾ったということになった。 まさか私がこうした被害にあうと…

結婚しないこと

今年にはいって5人の友人から結婚式へ招待されている。 友人の結婚はとても喜ばしいことであり、心から祝福しているし、この気持ちに嘘偽りは決してない。しかしながら、私自身は一生結婚しないと心に決めている。この決心は新しいものではなく、小学校卒業…

誰の為の人生か?

自らの恥を晒すようで恐縮だが、この春から見事に就職試験に落ち続けている。何百社エントリーし、何十社面接を受けただろうか。そんな私に周囲の方々は「こんな時代だから仕方ないよ」と気遣ってくれる。そのたびに就職が決まらないことをひどく申し訳なく…

8月15日の明治神宮

毎年、終戦記念日の8月15日には東京・九段下にある靖国神社にできる限り参拝することにしている。理由はいくつかあるが、やはりA級戦犯も含むすべての戦没者に手を合わせるためである。今年も例年のごとく靖国神社へ向かった。靖国神社周辺ではこの日、様々…

納税の責任

私たちは義務教育で勤労、教育、そして納税という「国民の義務」を学ぶ。しかしながら、なぜそうした義務が発生するのか、ということについて深く追求することはあまりない。とくに「納税」については、その義務を果たさなければ自らが汗水垂らして築いた資…

紙のお札の給料袋

東急東横線に乗って渋谷駅から横浜方面に向かうすぐのところに、私が人生で初めて勤めた会社のあったビルが見える。 当時、上京したてで右も左もわからなかった18歳の私を一から鍛えてくれたのがその会社の社長だった。彼女は当時28歳。夜は六本木で働きなが…