島の人間、島の私。 最終回

上京してもうすぐ10年になる。
私は小さな南の離島で生まれ、高校卒業までそこで過ごした。
高校時代の私にとって、島は早く離れたい場所だった。何もない小さな島で、何もない日常が、地縁と血縁とうわさ話だけの社会で終わっていく。高校時代の私は、島をそんなふうにしか見ることができなかった。早くここから逃げ出したい、その一心で私はわざと東京に憧れ、東京での生活を夢見、ただそれだけを思って受験勉強をしていた。だからこそ大学に合格したときは本当にうれしかったし、上京の日に飛行機から見た宝石箱をひっくりかえしたような夜景をみたときは身震いした。今でも私は東京が好きである。
しかし、「逃げ出した」ものは必ずいつか対峙しなければならない。
祖父の葬式を機に帰った島は、以前見ていた島とは違っていた。いや、島ではなく、私が変わったのかもしれない。とにかく最近私は、島と、島に代表されるなにかにしっかりと向き合わなければならないと思うようになっている。
そんな私が里帰りした。なんたる偶然かバケツの水をひっくりかえしたような記録的な豪雨に見舞われ、当初3日の予定だった帰省は一週間になってしまった。屋根をたたきつける轟音とともに降り続ける雨を見ながら、「お前はここで生まれ、ここで育った島の人間だ、それを忘れるな」と島の神様に怒られた気分だった。(J=大学院博士課程)(完)