バッグを開けて 最終回

衣替えをしていたら、出所不明のバッグが出てきた。タイシルクのような布地に、ビーズで花の模様が刺繍してある。見覚えはあるのだが自分の趣味ではないし、昔買ったんだっったっけ?と思って、でも使わないから捨てようとゴミ袋に入れた。そのゴミ袋を玄関の片隅に置いておいたら母が見つけ、「これは○っちゃんからもらったものよ」と昔の彼氏の名前を出した。

そのときの驚きったらない。「○っちゃん」っていう親しげな呼び名が呼び水となって、記憶の底のほうがかき回される。ぐるぐると脳みそは過去を駆け巡るのだけれど(そして様々な思い出の断片が花びらのように舞うのだけれど)、それでも私はこのバッグをもらった状況をどうしても思い出せないのである。あれほど好きで、別れるときは筆舌に尽くしがたい絶望感を味わったのだが・・・影が強すぎて、楽しかったときのことは忘れちゃったのかしらん。

学生時代に長いこと付き合った○っちゃんとの関係は私にとっては重大事項だった。その破局も。それでも時間はきちんと流れるし、過去はやっぱり色あせていく。○っちゃんともたぶん二度と会うこともなく、どんどんお互いのことを忘れながら、生きていくのだ。こんな当たり前のことが、ニュートンのりんごのように腑に落ちた。

気持ちが消えても、物はあのときのまま残るのが、人生のミステリーだ。(キューピー小村=GK<合コン>部長)(完)